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朝日新聞、地域面などの編集・校閲業務を4月に分社化 人件費100億円削減へ

 今年4月に予定されている朝日新聞の編集部門の一部分社化。2014年2015年と過去2年間の社長の新年あいさつでも説明されてきたが、かなり具体的な内容が業界紙による新年号の業界トップインタビューで明らかになった。以下、1月2日の新聞情報に掲載された該当部分を引用する。なお、記事全文を含めた紙面は「新聞オンライン.COM」で525円で購入することが可能だ。

[購入先]⇒2016年1月2日 - 電子版新聞の販売・購読ポータルサイト - 新聞オンライン.COM

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――4月から編集部門を分社化すると聞いていますが、対象や目的を教えて下さい。


渡辺社長 当面、やろうとしているのは地域面とフィーチャー面*1の校閲と編集です。フィーチャー関係を中心とした写真やデザインも移そうと思っています。
 全社で毎年70人から80人の採用を維持していても、なかなか写真やデザイン、校閲の記者を潤沢に採用していくことが難しくなってきていて、次の世代に伝えていくことが困難になってきていることが狙いの一つです。朝日新聞は写真やデザイン、校閲にしても、他社から評価されています。これを一定のボリュームで伝えていくためには新社で新たに採用していく方がより効率的だろうというのが一つ。もう一つは別会社にして外と連携することによって、別の才能を持った人が入りやすくなることを期待しています。
 また、新社として事業をすることも狙っています。朝日新聞社の校閲部門朝日新聞の校閲をするわけですが、新社の校閲は朝日新聞の校閲もするけど、他社の校閲を預かってもいいわけです。それがビジネスとして成り立つなら、校閲の人をもっと採用すればいいわけですから。


――新社は子会社の朝日マリオン21を利用すると聞きました。


渡辺社長 マリオンはもともと、そういう意図を持って作った組織なのですが、ちょっと特化しているところがあるので、これを土台にして違う機能を入れていく考えです。


――人員規模はどれくらいでしょうか。


渡辺社長 本体からの出向者は数十人規模でスタートすることになりそうです。
(2016年1月1日付新聞情報 「朝日新聞社 渡辺雅隆社長に聞く」より)

 整理すると「分社化の対象になるのは地域面とフィーチャー面の編集(レイアウト)と校閲」「新会社は子会社の朝日マリオン21を利用」「出向者は数十名でスタート」となる*2。当初はもう少し早く行われる予定だったが、2014年の「吉田調書」「吉田証言」「池上コラム不掲載問題」一連の問題を受け、この時期になったようだ*3

 朝日マリオン21は会社案内によると2006年に設立された朝日新聞社全額出資の編集・情報発信サービス会社で、東京本社のマリオン編集部が独立して業務を開始。夕刊の生活情報面*4の編集・制作をはじめ、朝日新聞の各種別刷り特集、広告特集の編集、各種大学・企業小冊子の発行も手がけている。また、朝日新聞社が主催する吹奏楽合唱コンクールやスポーツ事業など全国大会の取材・記事化も行っている。この会社に新たに地域面とフィーチャー面の編集と校閲業務を委託することになるのだろう。

(追記:2016/4/20 朝日マリオン21は、4月1日付けで社名を「朝日新聞メディアプロダクション(略称:Aプロ社)」に変更した)

 編集部門の分社化は他社でもあり、産経新聞2013年10月に「産経編集センター」を設立し、校閲部門を全面的に移管した。また、読売新聞も徐々に子会社の読売プラスに移管している。下記の転職情報サイトの求人案内(1月11日募集終了)によると、2014年4月から業務委託が始まり、2015年12月現在で東京本社のベテラン校閲記者9人を出向させ、計40名体制で東日本23都道県の地域面の校閲作業を行っている。今後は東京本社の地域面の校閲業務を全て委託すべくさらに子会社の組織を整備中とのことだ。

[参考]⇒読売新聞 地域面の校閲者★1年後をめどに、一定水準到達で正社員登用|株式会社読売プラスの転職・求人情報|エン転職

 分社化⇒コストカットというネガティブな印象を与える可能性もある中、なぜ読売のようにひっそりやらず、わざわざ業界紙でトップがインタビューで説明を続けるのだろうか。個人的な推測だが、おそらく販売店をはじめとする社外関係者へのアピールの要素が大きいように思う。業界紙の読者は新聞社と販売店、広告会社などだ。部数や折込チラシの減少の影響を最前線で受け、さらには配達や集金スタッフの確保に苦しむ販売店や、広告営業に苦しむ広告会社に対し、「本社もこれだけ身を切る努力をしている」と示す必要があったのではないだろうか。

 1月4日に朝日新聞東京本社で行われた「年始の会」での渡辺社長年頭あいさつでは、直接この分社化の話題については触れなかったものの、人件費の削減について以下のように宣言している。

 持続可能な経営基盤を確保し、新たな事業領域に乗り出す原資を生み出すため、固定費の中で大きな割合を占める人件費の削減にも踏み切らざるをえません。要員の自然減を含めて給与・賞与で年100億円規模を抑制します。
(2016年1月8日付新聞情報より)

 続いて「成果を上げた社員に報いることができる人事・給与制度を目指す」「65歳までの定年延長の17年4月実施を目指す」「成長事業の創出を目指す社員が選択できるチャレンジ型の処遇制度を導入する」といった人事政策の見直しも説明しているが、100億円抑制ということは社員数4600人で割ると単純計算で1人あたり年間200万円程度のマイナスだ。業界随一の給与水準だった朝日も、部数や広告費の減少と新事業への投資の両面に向き合っていくためには大胆に切り込まざるをえない姿勢が伺える。

 一方で、分社化により新たな事業への展開や人員の採用が柔軟になる面は確かにあるだろう。例えば産経新聞から分社化し、昨年11月に設立10周年を迎えた産経デジタルは、社長がインタビューで「孝行息子」と賞賛するほどグループの収益面で貢献しているそうだ*5。また、職人気質の社員にとっては他部署への異動や転勤などを気にせず専門性を磨けるというメリットもあるかもしれない。紙の新聞だけを作っていた時代が終わり、様々な業務が生まれ、働き方が多様になる中、全ての社員を一律の制度・待遇で雇用することの限界が業界にも押し寄せているということなのだろう。

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*1:1面や社会面、運動面などの「ニュース面」に対して、学芸面や生活面、科学面などを指す言葉

*2:なお、情報誌FACTAによると出向は春と秋の2段階で、最終的には160~170人ほどの社員が新会社に移るとしている

*3:参考:「信頼回復と再生のための委員会」第1回会合(2014年10月18日)主なやりとりの最終部分に「編集新社の設立については組合に提示しました。した時点で止まっていて。しかし今、編集の現場はそれどころではないので、半年延ばしましょうということも社長が組合に表明しています」という社側の発言がある

*4:身近なイベント・レジャー・プレゼント情報を掲載する面

*5:2016年1月2日新聞情報 産経・熊坂社長インタビューより