edgefirstのブログ

国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

朝日・木村社長「朝夕刊セット主義からの脱却を」「取材部門で別会社設立へ」

 昨年の新年あいさつで「若者に紙は届かない」「デジタルに対応できない記者は仕事を失う」など刺激的なメッセージを放った朝日新聞の木村伊量社長。今年1月6日に行われた新年祝賀会のあいさつでも、消費税増税を控えた今年を決戦の年と位置付けており、不滅のジャーナリズム精神を未来に引き継ぐ強い使命感と覚悟を全社員に求め、経営基盤強化のため「聖域なき構造改革」を強く訴えた。昨年に引き続き、気になった発言をいくつか抜粋して紹介したい。

なお、全文は業界紙・新聞情報の1月8日などに掲載されており、「新聞オンライン.COM」で525円で購入することが可能だ。

[電子版購入]⇒2014年1月8日 - 電子版新聞の販売・購読ポータルサイト - 新聞オンライン.COM

異次元の販売支援

 4月からの消費税増税への対応は、いよいよ本番を迎える。販売については消費税対策と構造改革を一体のものとして進め、今月から全国のASAの専売店を対象に空前の規模、「異次元」の特別支援を行う。

 ちょうど年末、朝日が専売店に対し1部あたり100円の補助を2014年1月から6カ月間実施するという記事が業界紙に出た(参考)が、時期的に言ってこれが「異次元」の特別支援になるのだろう。単純計算すれば750万部(2013/11ABC部数)×100円×6カ月で45億円。来たる消費税増税に備え、部数や折込広告の減少による経営環境の悪化や店の人員不足に対抗するためのカンフル剤と言えそうだ。

過剰予備紙の整理と顧客名簿の共有

 いわゆる予備紙の問題を放置しての構造改革などありえない。2017年度までをめどに、まず朝刊420万部を抱える主戦場の東京本社管内のお店から順次、予備紙の整理を進めてもらい、経営改善を促す。「競争地域」と「協調地域」のエリア戦略に沿って、販売店の規模の適正化も加速させる。(中略)ASAの顧客情報を本社と共有する顧客データベースの構築にもただちに着手する。戸別配達網をフルに活かして顧客の志向やニーズを探るきめ細やかな販売手法が、これからの新商品の投入など、次のビジネス展開のカギを握ると考えるからだ。

 朝日の公称部数は2010年には800万部であったが、直近では750万部程度まで減らしている。しかしこの発言は2017年度までさらに落ちていくことを示唆している。疲弊した販売店の経営改善が目的とのことだが、まだ道は半ばといったところか。

 販売店読者名簿の本社との共有は、地方紙の一部がすでに取り組んでいるが、ついに朝日も乗り出す。自動車ユーザーの顧客名簿がメーカーではなくディーラーにあるように、これまで顧客名簿は販売店のものであり本社は関知してこなかった。しかし、紙と電子版のセット販売のように本社と読者が直接結びつくようになれば、販売店と情報を共有するのも自然な流れとなっていくのだろう。

朝日デジタルの有料会員数は12万5千、ハフポは月間500万ユーザー

 11年5月に誕生した朝日新聞デジタルは有料会員数が約12万5000人に達する。今後、販売部門とタイアップして、まったく新しい発想に立つデジタル販売の新戦略を近々打ち出すことにしている。これに向けて全国のASA販売店から先進的なデジタル実験店を指定し、7月から始動させる計画だ。(中略)朝日新聞が出資した「ハフィントン・ポスト・ジャパン」はスタートから約8カ月がたち、正味のサイト訪問者であるユニークユーザーの数が昨年12月には当初の月間目標の2倍以上の500万人を超えました。月間のページビューは2000万が視野に入ってきて、収入面を含めて順調に推移している。

 昨年3月に有料会員が10万人を突破した朝日新聞デジタルだが、その後は9カ月で2万5千人という伸び。今年は販売店を使った営業を本格的に開始するらしい。ハフィントン・ポスト日本版については硬派系の言論メディアとしてソーシャル上でも存在感を持ってきたような印象がある。常勤スタッフが10人程度(参考)でもこの数字を出せるということは、朝日だけでなく他社のデジタル部門にとっても参考になる事例だ。

朝刊・夕刊セット主義からの脱却

 創立記念日の今月25日組み朝刊から、紙面改革を実施する。販売戦略とも連動し、コア読者であるシニア層、子育て世代の主婦層、地域では首都圏に照準を定めた、親しみやすく役に立つくらし情報を満載した新紙面をお届けする。なかでも力を入れていくのは、新年からの紙面でもご覧のとおり教育だ。夕刊と朝刊は別媒体という考えに立ち、「帳合主義」は捨てる。夕刊は朝刊とは別の編集体制を取るよう今年から検討に着手する。

 前段の紙面改革については特に目新しさはない(毎年どこかで紙面改革は行われている)が、後段の「夕刊と朝刊の『帳合主義』は捨てる」という発言は興味深い。これまで朝刊と夕刊は一つの商品として、朝刊は夕刊を読まれていることを前提に記事が書かれ、連続性を意識して紙面は編集されてきた。しかし現在、朝刊と夕刊をセットで取っている読者は朝日でも3割程度にまで落ち込んでおり、セット商品という前提は崩れつつある。まだ「検討に着手する」という段階ではあるが、長年の伝統に一石を投じる意味は少なくないように思う。

取材部門の別会社を設立へ

 要員が減り、かつ高齢化するなかで、高水準のプロフェッショナリズムを維持するためには工夫が必要だ。一群の専門記者集団を擁する編集プロダクション「朝日メディアコンテンツ社」(仮称)を設立し、社外の優れた人材を機動的に活用する体制づくりを目指す。シニア雇用、短時間勤務者の職域としての活用も視野に入ってくることだろう。どういう形でそれが可能か、夏までに検討を進めるよう吉田編集担当に指示したところだ。

 今回のあいさつの中で一番インパクトがあったのがこの部分。自前主義から脱却し、社外人材を積極的に活用することも目的の一つだろうが、主眼は全体人件費の抑制だろう。あいさつの後半で触れられているが、ほぼ同じ人員規模の読売に比べ、朝日の社員の給与・賞与総額が60億円ほど多く、2012年度の営業利益は読売の3分の1以下だそうだ。

 テレビ局が少ない社員と数多くの外部スタッフによって番組制作されているのが普通のように、朝日新聞本社よりも柔軟な賃金体系で取材人員を確保する狙いがありそうだ。これまで“編集委員”のような立場の管理職になれない/ならない中高年記者や、専門性の高さゆえに人事流動性が低くなる記者を中心に転籍させ、本社を身軽にするつもりなのかもしれない。他媒体の取材受託などで別の収入源を模索していくこともありえる。昨年10月、産経新聞が整理・校閲部門を一部分社化したが、どちらも「聖域はない」というメッセージを出すには十分だ。