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国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

読売・渡辺会長「1000万部獲得は絶対できる」「誤報を恐れて特ダネがなくなるのは困る」

 大変刺激的なメッセージが込められた朝日新聞・木村伊量社長の新年あいさつを紹介した後に、この話題を取り上げるべきか少し迷ったが、同じ業界でも会社が違うとトップのメッセージがここまで違うという意味で紹介したい。1月7日に行われた読売新聞社の2013年賀詞交換会での渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長・主筆の新年あいさつ。なお、あいさつの要旨全文は1月19日付新聞情報ほか各業界紙に掲載されている。以下のリンク先で本記部分については立ち読み可能。
[該当紙面]⇒2013年1月19日 - 電子版新聞の販売・購読ポータルサイト - 新聞オンライン.COM
 昨年12月に発足した安倍内閣を「重厚で、有能な人材を備えた」と評価し、「傷ついた日米同盟の修復を」「TPPには早期の参加を」「原発は再稼働すべき」という持論を説いた後、以下のように続く。

 新聞界では今、イギリスのマードック系の新聞が新聞が盗聴問題やスキャンダルなどで潰れたり、世論から批判されたりしています。我が社も確かに昨年、「iPS心筋を移植」という誤報を出してしまいましたが、これは悪意を持って風俗を壊乱しようとして起こしたのではありません。我が社の記者が少し不用心だったのです。
 イギリスの一部の新聞は、儲かればいい、売れればいいという風になっています。日本では思想的に偏向した新聞はありますが、週刊誌のようにスキャンダルなどで儲けようという新聞は新聞協会加盟社にはありません。ですから日本の新聞は世界で一番質が高く、その中でも、読売新聞が最も質が高い、と私は確信しております。
 確かに誤報はありましたが、特ダネもたくさん抜いております。誤報は一番悪いというのが私の考えですが、特ダネを抜くときに、誤報になってはと萎縮するのは困ります。特ダネは、ちょっと頭を使ったぐらいでは抜けませんし、非常に努力が必要です。
 そういう努力のもとにいい新聞を作れば、1000万部の大台獲得は絶対にできると私は思っています。新聞全体の限られたパイの中で読売新聞が充実していけば、読者は増えます。努力すれば、できないことはありません。

 いかがだろうか。このあいさつが社員を前にした内輪向けのあいさつであることを割り引いても、そういう考え方で大丈夫なのかと心配してしまう。2年続けて11月から12月の朝刊部数が急落したあのグラフを見ても「1000万部は絶対に獲得できる」と言い切れるのはある意味すごい。根拠が「努力すればできないことはない」とほとんど精神論の世界である。
 また、世間を大きく騒がせた誤報について「少しばかり不用心だった」という程度にしか思っていないようでは、トップとしてあまりにも反省がないと思われても仕方ないだろう。社員の士気を鼓舞する狙いがあるのかもしれないが、「誤報を恐れていては特ダネを取れない」と受け取られかねず、オフィシャルな場の発言としてはかなりまずいのではないか。部数だけでなく内容まで虚構新聞になってしまっては笑うに笑えない。
 あいさつの最後、渡辺会長は「思い切った政策で景気が向上し、広告収入が回復すれば、読売は絶対安全、安泰です」と言い切る。御年86歳のこの発言を聞いて安全安泰と思う人は、読売の社内でもいないのではないかというのが正直な感想だ。

渡邊恒雄 メディアと権力 (講談社文庫)

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