edgefirstのブログ

国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

産経とヤフーに賠償命令 「手錠姿」写真の掲載で媒体側の責任認定

 なぜか1年以上前のメモ(三浦和義氏の妻が名誉棄損で産経新聞と配信先のヤフーを提訴)にアクセスがあったので調べてみたら、東京地裁で判決が出ていた。

 81年の「ロス疑惑」を巡って、08年に米側に逮捕され移送先のロス市警の留置場で自殺した三浦和義元社長の妻が、ウェブサイト「YAHOO!JAPAN」掲載の記事と写真で精神的苦痛を受けたとして、提供元の産経新聞社とサイトを運営するヤフーに損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(松並重雄裁判長)は15日、「手錠姿の写真は、亡夫に対する敬愛追慕の情を受忍しがたい程度に侵害する」と述べ、両社に連帯して66万円を支払うよう命じた。
 新聞社から配信された写真を掲載したことで、ヤフーが賠償を命じられたのは初。(以下略)
名誉毀損訴訟:ヤフーに賠償命令 「手錠姿」配信写真掲載で−−東京地裁 - 毎日jp(毎日新聞)

 毎日新聞の記事によると、記事中の被害女性の母親の「今でも三浦元社長が犯人と信じている」というコメントを引用して書かれた部分については「母親が信じることについては一応の理由がある」などとして請求を退けたものの、85年に警視庁に逮捕された際の連行写真については「20年以上前の手錠姿を掲載する必要性は認めらない」として、産経新聞社とヤフーに連帯で66万円の支払いを命じている。
 この裁判報道については、新聞社や通信社などから記事・写真などの提供を受けるネット媒体に対しても初めて連帯責任が認められたことが大きく取り上げられ、ヤフー側の責任が問われたことについて力点が置かれているが、運用側の視点で見ると一義的には産経新聞側のミスである。当時の雰囲を伝えるための資料写真として配信したのだろうが、いくら当時大きく世間を騒がせたとはいえ、無罪が確定した人物の手錠姿の写真を配信する必要性はない。昨今では逮捕・連行時のテレビ報道でも、人権への配慮から手錠部分にぼかしをかけて放送している。ぼかしをかけること自体に意味があるかないかは別として、様々な経緯を経て出来上がってきた社会的合意から産経が逸脱していたことは確かだ。
 ただ、原告の弘中弁護人が「若い人を中心にデジタルニュースが主流となる中、ヤフーの賠償責任を認めた意義は大きい」とコメントしている通り、ニュースを得る手段として新聞よりもインターネットの方が主流になりつつある中、媒体側の「ウチは載せただけであり、責任はない」という論理に一定の歯止めがかかったともいえる。1カ月に7000万ユーザー、45億PVという圧倒的なアクセスを持つヤフーニュースであるからこそ求められる社会的責任も大きい。提供元から配信される記事・写真の取り扱いについて、今後は新聞やテレビと同じような報道倫理が求められることになるだろう。
 とはいえ、無料で運営するウェブ上のニュースサイトにとってみれば、わざわざ訴訟リスクを負うくらいなら、裁判報道は一切掲載せず、代わりによりアクセスが稼げる芸能・スポーツニュースに注力するという方針に変更することも考えられなくはない。事実、名著「ウェブで儲ける人と損する人の法則」で知られる中川淳一郎氏はネットニュースの運営について「お手軽にPVを稼げる」「クレーム対応や訴訟リスクを徹底的に避ける」の二つが重要と言い切っている。この判決によって、ヤフーニュースの今後の記事掲載ポリシーに変化が出てこないことを願いたい。
 ヤフートピックス編集部長の奥村倫弘氏は、著書「ヤフー・トピックスの作り方」の中で「ネットニュースの編集・組織作りでも既存マスメディアで培われた経験は重要」として、トピックス編集部に求められる人材の条件として既存マスメディアで働いた経験を挙げている。実際にトピックス編集部で働いている人のほとんどが新聞・出版・放送業界の出身のようだ。なんとなく一方的に人材流出しているようなイメージがあるが、今後は相互の人材交流のようなケースがあってもよいのではないだろうか。