edgefirstのブログ

国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

読売・渡辺会長「紙の新聞が中軸、電子メディアは紙の補完」

 業界紙を読んでいると、絶対にインターネットでは読めないような記事に出会うことがある。7月14日に新聞之新聞に掲載された渡辺恒雄読売グループ本社会長・主筆の読売新聞販売店総会のあいさつなどがまさにそれ。読めば読むほど業界トップの姿勢がわかって興味深いので、抜粋してところどころ茶々を入れながら紹介。以下、引用部分は新聞之新聞7月14日付から。
20100718184119(あいさつする渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長・主筆。1926年生まれの御年84歳)

 読売6法人、つまりグループ本社及び東京、大阪、西部三本社と巨人軍、中央公論新社の売上高は4351億円で、新聞業界トップ、経常利益127億円、当期利益も49億円弱である。朝日が当期利益31億円の赤字、日経14億円の赤字、毎日が3億円の黒字と比較すると財務は健全であり、また現預金も407億円、借入金は長短合わせて35億円で、実質無借金経営を続けている。(中略)しかし、朝日は今年31億円の当期赤字を出したとはいえ、現預金、短期有価証券、長期預金を含め、現金預金相当流動資産は1027億円に達し、かなりの余裕を持ち、大株主対策、年金問題など、読売にはない問題点はあるにせよ、あなどれぬ財務体質を持っている。

 EDINETでは見ることができないが、業界紙には載っている読売新聞グループの売上高の紹介。巨人軍などの数字も含んでいるとはいえ、経常利益127億円は戦後初の赤字決算となった朝日と比較すると対照的な数字である。とはいえ「朝日の財務体質は磐石」と油断はするなと呼び掛けるあたり、まだまだ戦闘意欲は失っていないようだ。

 読売新聞も経済界の不況の波を受け、新聞三本社の広告収入がピーク時の1745億円から867億円まで減少している。YC(※読売センター。読売新聞販売店のこと)の皆さまの努力により、販売収入がほとんど落ち込んでいないので、全体として黒字経営となっている。

 業界トップの読売でも広告収入はピーク時の半分。ピーク時から収入が900億近く減少してもきちんと経営していけるというのはある意味すごい。「YCの皆さまの努力により」って、それは押し(以下略)

 欧米では、新聞社の倒産や買収、合併が頻発しているが、欧米の新聞は日本のような確固たる戸別配達網がなく、収入の7、8割は広告収入に依存しているため、不況で広告収入が減少すると、直ちに経営破たんに直面することになる。日本の新聞は、販売収入が柱であり、読売新聞の全国8000店のYCと10万人の従業員によって張りめぐらした戸別配達システムは、世界最大最強のものであろう。

 大なり小なり日本の新聞社トップが同じ思いである「戸別配達制度」を強調。にしても全国の販売店は8000店もあるのか。県紙レベルだと100〜200店だから、規模が違いすぎるなあ…。

 日本でも、日経の有料電子新聞などが発足したが、私は日本の情報媒体は将来も紙の新聞が中軸であることは変わりないと確信している。
 学校教育も、教科書の電子化が言われているが、ある学者は、授業は紙の教科書じゃないとできないと嘆いていた。辞書の電子化は私も使用しているから利便性がわかるが、高度な文化・学問は、紙の書籍に傍線を引いたり、書き込みをしなければ頭に入らない。
 いわんや、毎日の世界、日本国内を通じた政治、経済、文化等が目を疲れさせるパソコンやケータイ、iPad等ですべて理解できるとは思えない。40ページ前後の大量の活字情報をこんなに安い価格で毎朝自宅に届けられる新聞こそ、情報メディアの中軸であって、電子メディアは補完的、部分的なものに過ぎないだろう。
 もちろん、わが社もヨミウリ・オンライン等、電子メディアへの対応と研究は怠っていないが、あくまで中軸は戸別配達される紙の新聞である。

 このあたりがインターネットを日常的に利用する側からすると「おいおい…」「耄碌ジジイが…」と言ってしまいたくなるところだし、紙媒体より多くの情報摂取を電子メディアの方から受けている層も着実に増えてきているのは間違いないところだが、この発言が新聞販売店の店主たちを前にしたあいさつであり、彼らを前に「電子メディアにバンバン力を入れていきますよ」とは言えないことを忘れてはならない。とはいえ、読売の基本姿勢が「紙」であり、電子メディアはあくまで補完と考えていることは間違いないだろう。
 むしろ「補完に過ぎない」と言うわりには月間1億5000万PVを誇る「大手小町」や、会員制サイト「ヨリモ」、シニア世代を対象にした「新おとな総研」など、インターネットに対しても同業他社に負けず劣らず力を入れているような印象がある。他にもヤフーニュースやmixiニュースなどネット上のさまざまなサイトへ結構な量の記事を出しているし(ANYで連合を組んでるはずの朝日や日経は基本的にポータルサイトへの記事配信はしていないにも関わらず!)、目立たないところでは朝日に先駆けて創刊以来135年分の新聞記事データベースのオンライン販売を始めており、公共図書館でのデータベース活用セミナーも熱心に行っている。これは、紙の新聞販売と直接バッティングしないのであればどんどん力を入れてくよということではないだろうか。トップの発言を額面どおりには受け取らない方が良い気がする。

 最後に申し上げる。大手町の現在の社屋は、築40年でかなり老朽化しており、しかも一極集中体制という古い思想で、鉛の活字と鉛版の時代に設計されたものだ。(中略)そこで、大手町の現社屋を解体し、その跡地に30階建ての最新鋭のビルを建てる。この不況の時代、なぜそんな贅沢をするのかとの批判もあるかもしれないが、不況だからこそ資材や労働力が安く調達できる。約4年後竣工した頃は、景気も回復しているだろう。仮に借金しても100億円前後で、読売の体力、資産力からして問題はないと判断した。

 大手町界隈の同業他社では産経、日経が相次いで新しいビルに建て替わる中、最後まで残ったのが読売だった。確かに古色蒼然たるビルであり、業界トップの社としてもなんとしても負けられないところ。「100億円程度借金しても問題ない」とサラリと言ってしまえる企業トップはステキ。経営とはかくありたいもの。
 いつもサンケイビルの前を通ると「バランス悪そうだなあ、根本がフラフラしないかなあ」という余計な心配をしてしまうし、昨年できたばかりの日経の新しいビルはまるでネルフの本部みたいにハイテクすぎる気がするので、願わくば読売らしい質実剛健でどっしりとしたスタイルにしてほしい。いや本当に余計なことだが。