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朝日新聞、特集企画「吉田調書」公開 ソーシャルメディアでスクープ予告 

 朝日新聞東日本大震災発生時の東京電力福島第一原子力発電所の現場責任者である吉田昌郎所長(故人)が政府事故調の調べに対して答えた「聴取結果書」を独自に入手。全400ページ、50万文字に及ぶこの調書を元に分析・検証した特集企画「吉田調書」を、朝日新聞デジタル上で5月19日夕方公開した。19日に公開されたのは「プロローグ」で、本編は翌20日から全9回の構成で掲載される予定。20日には「フクシマ・フィフティーの真相」、21日は「ここだけは思い出したくない」が公開された。

吉田調書 - 特集・連載:朝日新聞デジタル
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 また、翌20日から吉田調書でわかった新事実を紙面とウェブで報道。20日朝刊では「福島第一の原発所員、命令違反し撤退」という記事が、21日朝刊では「ドライベント、3号機準備 震災3日後、大量被曝の恐れ」という記事が掲載された。

 「吉田調書」は、朝日新聞ソチオリンピックの際に公開した浅田真央選手のこれまでの足跡を振り返るコンテンツ「ラストダンス」と同じく、写真やテキスト、グラフィックや音声が組み合わされている。また、パソコン、スマートフォンタブレットなど様々な画面サイズで利用することができる。 中心コンテンツとなるテキストは1回あたり5000文字程度。原発関連の長期ルポ「プロメテウスの罠」同様のドキュメンタリータッチで描かれ、途中に調書に記述された吉田氏本人と委員のやりとりがそのまま挿入される。

 今回大きな反響を呼んだのは、非公開の貴重な資料を入手したというスクープ性とともに、公開前日の18時からソーシャルメディア上で一斉に予告されたことだ。まず18時05分に朝日新聞の代表的なTwitterアカウントである@asahiにて以下の予告がされ、プロローグが公開された。


 すると、続々と朝日新聞の記者アカウントや部署単位のアカウントが次々に反応し、一気に拡散することになった。このためまだ本編が公開されていない段階で数千単位のツイートやシェアが行われ、翌日からの本編に期待がネット上で高まった。社内に「ソーシャルメディアエディター」という職責を置き、日頃から記者や部署単位のTwitter利用を積極的に推進してきた成果が存分に生かされたと言える。「ぜひツイートを」という号令をかけたことは想像に難くない。

 朝日新聞はさかのぼること4年前の2010年1月には東京編集局のTwitterが「JAL上場廃止へ 詳しくは明日の朝刊で」という“特ダネ予告”を行っている。この時は午前1時半ごろの紙面が確定し、他紙が追いつけないと判断した時点での予告だったが、あれから4年、様々なノウハウや技術力を蓄積しついにここまで来た。


 特ダネのニュース価値の高さをデジタルならではの表現力および拡散力により、一層際立たせることができているように感じる。すでに海外ではオンラインメディアやデジタル報道がジャーナリズムに関連する表彰を受けるることは珍しくなくなったが、もしこの「吉田調書」が今年度の新聞協会賞となれば、日本でも本格的なデジタル報道が始まった第一歩と言えることになるのではないだろうか。

 そしてこの報道がきっかけとなり、まだ埋もれている政府事故調査委員会の非公開資料が、多くの人の目に触れるようになることを願ってやまない。