edgefirstのブログ

国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

朝日・秋山社長「デジタル・不動産・教育に注力。お客様第一主義で」

 先日、読売新聞社の渡辺会長の販売店会合でのスピーチをメモしたが、朝日新聞社の秋山社長のインタビュー記事も合わせてメモ。読売と合わせて読むと、両社の立場の違いが分かって非常に面白い。

 リーマンショック後、長い真っ暗なトンネルの中で出口が見つからない状況だった。しかし、ここに来てようやく薄明かりが見えてきたようにも思える。右肩下がりだった広告収入の落ち込みが、底を打つ気配を見せている。ここを足掛かりとして、今期は何とか営業黒字に浮上して、新規事業にも積極的に投資していきたい。
 デジタル関連事業に加え、不動産事業、教育関連事業にも注力し、新聞を中核とした総合的なメディア企業という形での生き残りの道を模索している。
 不動産事業では、大阪・中之島の再開発プロジェクトを進めている。1棟目となる「中之島フェスティバルタワー」は今年1月に着工、2012年秋には完成する。18年ごろには2棟目のタワーも完成する予定だが、2棟目着工の最終判断は、大阪の地域経済の状況なども総合的に判断して、もう少し先に下したい。
デジタル時代でも、お客様第一主義に徹する | インタビュー | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

 読売が「販売網こそ最大最強の財産」と高らかに宣言するのに対して、朝日は「デジタル、不動産、教育に投資」ということを宣言している。この辺りが両社の戦略の大きな違いといえるだろう。とはいえ大阪・中之島のタワーも着工判断がついていないということは、不動産への投資も楽観はできないということなのだろう。そういえば、有楽町マリオン西武百貨店が撤退した後はヤマダ電機がテナントとして入るそうで、よかったね。

 技術革新は今後も止まらない。デジタル媒体も多様化して複雑になっている。だからテクノロジーの進展を敏感に感じるシステム部門の若手や、出版の最前線で電子書籍に詳しい若手など、社内のあちこちから人を集めているところだ。私も含めて新聞記者出身は大体技術がわからない(笑)。
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 社長から「システム部門」や「出版」など具体的な部署名まで挙げて期待を寄せる発言が出るあたり、記者以外の若手には励みになるメッセージではないだろうか。記者だけではこれからは生き残っていけないという意識を感じる。

 紙からデジタルへと舵を切るのではなく、紙もデジタルも、つまり両者の最適な組み合わせを追求していくしかないと考えている。
 というのも、朝日新聞の収入の9割が紙の新聞によるものであり、それを支えているのが北は北海道の稚内から、南は奄美大島までの全国販売網であるためだ。
 過疎地の販売店で後継者がいないようなケースでは、全国紙も地方紙も一つの販売店で売る「合売化」の流れも出ているが、日本列島を貫く太い販売ルートはしっかり維持していきたい。
デジタル時代でも、お客様第一主義に徹する | インタビュー | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

 もちろん紙の販売についても重視する姿勢は忘れない。ただ、逆に言えば「日本列島を太く貫く販売ルートが維持できればよい」ということで、そこから外れたエリアについては整理統合してもよい、ということなのかもしれない。ある程度拠点となる地域はしっかり守るが、いわゆる採算の悪い地域についてはそれほど面倒は見ないよということなのかも。この辺りに「全国8000の販売店、10万人の従業員」を強調する読売との温度差を感じる。

 「瓦版」から「新聞」となった明治初めのころの朝日新聞は、さまざまなコンテンツを集めた偉大なポータルサイトだったと思う。もともとの出発は、世俗のネタを中心に発達してきた「小(こ)新聞」だったが、政論を唱える「大(おお)新聞」の要素もミックスし、ありとあらゆる情報が載っている媒体となった。その時代から今に至るまで一貫して変わっていないのが、「お客様第一主義」の考えのはず。ジャーナリズムの側面があまり強くなりすぎると、その点が失われがちとなり、「お高くとまって」「世の中を斜めから見て」などと読者からの反発を招くことにもつながりかねない。
 たとえば販売店や読者からの評判が非常にいいコンテンツの中に、朝刊一面の小さなコラム「しつもん!ドラえもん」がある。ジャーナリズムではないが、読者第一の視点からはこうした工夫が欠かせない。
 それこそ創業者たちが、新聞という新しいメディアを世の中に普及させるために、夏目漱石を社員に迎えてその連載小説を載せ、真夏の甲子園で学生野球大会を主催したような原点に、立ち返る必要があると考えている。
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 世俗ネタ中心の「小新聞」と、政論中心の「大新聞」をミックスし、ありとあらゆる情報が載っている明治の創刊当初の朝日新聞が“ポータルサイト”であり、それが朝日の果たしてきた「読者第一主義」であるという考え方。確かに夏目漱石の連載小説や、夏の甲子園球場で高校野球を始めるというのは、当時の人たちにとっては新たなチャレンジであったに違いなく、いわゆる“真面目な人”たちから出た発想ではないのだろう。
 ただ、今の情報の氾濫する時代、朝日新聞のような全国紙がカバーするには領域として少し広すぎるような気もする。「プラットフォームを担いたい」という発言もところどころに出てくるが、「朝日」のブランドが通じる世界ではなく、そういった世界でプラットフォームを目指すということがイバラの道であることは間違いないだろう。