edgefirstのブログ

国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

(追記あり)朝日新聞の双方向型新サイト「withnews」 記者に「深堀り」してほしいニュースを募集し取材

(おことわり:このブログ記事は7月7日に公開しましたが、7月22日の本格運用の発表を受けて、初出より見出し・本文を加筆修正いたしました)

朝日新聞社は22日、ユーザーとコンテンツを作っていく双方向型のニュースサイト「withnews(ウィズニュース)」の本格運用を始めたと発表した。スマートフォンタブレット、PC向けのウェブサイトを提供する。
 一般ユーザーの投稿に基づき、記者が取材依頼を受ける「リクエスト機能」を実装。読者の幅広いニュース需要に応える狙いだ。「依頼のすべてには答えられないかもしれませんが、ユニークなリクエストをお待ちしています」としている。
 一方、ネット上の話題やうわさも取材対象とし、真偽の検証や調査を行っていく。サイトの閲覧やリクエストはすべて無料。フェイスブックツイッターにもサイトを開設した。
双方向型新サイト「withnews」の本格運用を開始:朝日新聞デジタル

 朝日新聞は7月22日、双方向型の新しいサイト「withnews(ウイズニュース)」の本格運用を開始した。6月下旬からスマートフォン向けのサイトを先行オープンさせていたが、パソコン向けサイトやTwitterfacebookページも用意している。サイトの目的については、ユーザーが日々のニュースで“気になる”ことをリクエストすることで、朝日新聞社が一生懸命に深堀り取材をして答え、いろんなメディアを巻き込んで一緒に“気になる”を解決していくという主旨のことが書かれている。

[サイト]⇒withnews(ウィズニュース)

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 サイトに上がっている「フカボリ」したニュースとしては、例えば最近話題になった「東京ガスの就活生親子のCMがクレームで打ち切りになったというのは本当か?」という取材リクエストに対し、東京ガスに問い合わせ、一部視聴者から数件の意見があり配慮したこと、前作のCMが広告賞を取ることが決まったためそちらに切り替えた、という理由を聞き出し回答している。

 また、大阪大学のゴミ捨て場に捨ててあった10数体のロボットがどういう経緯でそこに置かれたかといった話題や、グノシーとスマートニュースの違い、サッカーW杯で優勝した国の次回の1次リーグ敗退率は高いのか、といったリクエストについて取材し回答している。

 ウィズニュース編集部の記者リストには、朝日新聞デジタル編集部の丹治吉順記者や古田大輔記者といった、ソーシャルメディアでの発信力が強い記者が名を連ねており、彼らの拡散力も生かして積極的な情報発信を行っている。リクエストを出すにはログインが必要だが、facebook/Twitter/Google/Yahoo! IDでのログインに対応。メールアドレスを登録すると、取材に回答した時に直接連絡が行くという親切設計だ。編集部へネタを提供する「タレコミ」機能も開発中とのこと。

 「3行まとめ」やイメージ画像(ストック画像)の多用、ネットで拡散した話題のまとめ記事など、ネットメディアの影響を強く受けていることはわかる。だが、正直なところ、いろんなニュースや広告が乱雑に貼られているような印象を受けてしまう。デザインには改善の余地があるし、サイトの趣旨からすれば「人気の記事」ではなく、「リクエストの仕方」「深堀りしてほしい依頼のリスト」「依頼を受けて取材したリスト」がまず目に入るべきだろう。

 新聞を含むマスメディアこれまで、日々新しいことを追いかけるのが「ニュース」であり、仮に記事を出した後に継続的に取材していたとしても、なかなか新しい展開がなければ記事になりにくいという特徴があった。しかし、締め切りや文字数制限といった制約がないデジタルメディアでは、取材のプロセスやその後の継続的な取材を可視化できるという特性がある。これまでの反省をこういったサイトを通して今後の記者の仕事に生かしていこう、ネットメディアのテイストを取り込み新聞を読まない層にもリーチしようというという意欲的な姿勢は非常に強く感じる。

 また、システムを地方新聞社などにレンタルするということも可能だろう。ユーザーから声に継続して答えていきたいと思いを共有する記者は地方にも大勢いるはずで、使いやすいシステムであれば需要はあるように思う。なお、ライターとして参加している古田記者によると、このサイトのためにCMSを新たに作成したとのことで、他社へのシステム提供の可能性も検討されているのではないだろうか。

 とはいえ、そもそも「新聞を読まない層に対するリーチ」と「ユーザーの疑問を解決する」の2つの目的のため、ややサイトの性格が曖昧になっているように感じられる。また、現状ではユーザーからのリクエストに十分答えられているとは言えず、スマートフォンのページデザインも改良の余地がある。サイト自体の知名度も浸透するのに時間がかかるだろう。

 新しいサイトではなく、すでに多くのユーザーを集めているサイトの中に、読者の声をフォローバックし、継続的な取材プロセスを可視化していく仕組みを少しずつでも試していった方がよかったのではないだろうか。例えば毎日新聞はウェブサイトに「毎日ジャーナリズム」というコーナーを設け、社の理念である「開かれた新聞」をアピールしている。その中の「Listening――あなたの声を聞きたい」というコーナーを“記事をもとに読者と議論を深める場所”と位置付け、編集局長もコメントを寄せる形で参加している。

 朝日新聞は2009年7月に「参考ピープル」という、「利用者が参考になる情報を出し合う」というコンセプトのモバイル向け無料SNSをリリースした(参考)が、1年足らずでサービス終了したという例がある。理想を高く掲げるのは素晴らしいことだが、アイデアの使い捨てにならないことを祈りたい。