edgefirstのブログ

国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

朝日の電子版は夏までに開始か 「本社だけが生き残るのではダメ」

 新年初頭の業界紙には読売や朝日といった大手紙トップのインタビューが並んでいる。あまり読んでいて面白いものではないが、所々に興味深い発言がある。新聞情報の新年特集号には朝日新聞社の秋山社長のインタビューが見開きで掲載されていたが、その中の朝日新聞の電子版創刊に関する発言をピックアップしてメモ。

 ―ところで、朝日も今年から電子新聞の発行を決めたと聞きますが。
 秋山 日経新聞さんが10年春から電子版を出された。デジタルニュースの有料化は世界の新聞社の大きな流れになりつつあります。朝日はこれまで、幅広くニュースを無料発信してきましたが、有料化を検討していきたいと考えています。ただし、日経は専売店が少ないので身軽ですが、朝日は全国に販売店網がありますので、販売店の方々が「本社は自分だけ生き残ろうとしている」とお考えになると、紙の販売にも影響が出てきます。販売店が納得できるビジネスモデルが作れないなら電子新聞はやりません。
 今はお店の方々と、どういうモデルなら協力が得られるのかという話し合いをしているところです。販売店からの不信感が取り除けたという確信が得られた時に、「いっしょにやりましょう」ということになります。
 ―築地会の席上、ASAの幹部も電子化は「時代の趨勢であり、致し方ない」という反応が多かったと聞きます。
 秋山 販売店の方々は、「日経もやっているのだから、そうだろうな。でも、本社だけ生き残ろうというのはだめだ」ということでしょう。販売店の方々の複雑な思いは、よくわかります。
 ―日経の場合は販売店が集金代行業的な位置付けですが、朝日の場合はそれを変えるとしても、販売店に納得してもらえる仕組みができますかね。
 秋山 日経の場合、販売店からの反発が強いのは、読者データを本社が握ることと、新聞代金が本社に収まることのようです。「販売店はただ、配達すればいいのか」と。このモデルだと、社は店のことを考えていないと受け止められる恐れがあります。(中略)
 ―電子版はいつ頃から始めたいと考えているんですか。
 秋山 日経は昨年の3月に始まり、5月から有料化されました。朝日が始めるとすれば、日経より1年以上大きく遅れないようにとは考えています。
 (新聞情報 2011年1月1日より)

 インタビューからはかなり販売店のことを意識している様子が伝わってくる。他社のインタビューによると、朝日のデジタル部門の収益は年50億円に届くか届かない程度。単体売上高の2%弱であり、紙の売上が90%を超えている以上、その稼ぎを生み出している販売店を不安がらせることがあってはならないのだろう。
 しかし、電子版のスタートは「販売店からの不信感が取り除けたという確信が得られた時」と言いつつも、「日経より1年以上大きく遅れない」と明言しているあたり、ほぼ創刊は確定しているのではないだろうか。別のインタビューでは、「朝日のデジタルに対する姿勢は、日経(積極派)と読売(様子見)の中間くらい」という表現も使っている。
 それにしても、販売店の幹部から「電子化は時代の趨勢であり、致し方ない」という言葉があったというのは驚き。営業現場でいつも読者と接しているからこそ出てきた発言だろうか…。
 全国紙で初の販売店を巻き込んだ形の電子版というモデルが、どういう形であれ今年中に登場するのは濃厚なようだ。業界に大きなインパクトを与えることは間違いないだろう。
(追記 2011/1/11 22:45)twitterで「社の都合ばかりで、読者にどういうメリットがあるかわからない」というコメントがあった。コンテンツについて触れた部分は端折ってしまったので、以下に追記。

―日経の場合は経済紙ですから、株などの数値情報で商売になるでしょうが、朝日が電子版をやるとして何が売り物になるでしょうか?
秋山 日経電子版で便利だと言われているのが「マイ日経」の機能です。データベースにも利用価値があります。朝日の場合は何が売り物になるかというと、通常の紙面では収容しきれない深く掘り下げた解説や、幅広い経済の様々な見通し、あるいは全国の取材網を活かした地方ニュースなどでしょうか。紙と同じ物をデジタルで出しても成功しないので、紙は取っていてもデジタル版も取ると「これは便利だね」とならなければ成功しないと思います。

 漠然とした内容ではあるが、読み取れるのは以下の2点だろうか

  1. 電子版オリジナルコンテンツとして、紙面では収容しきれない分量の解説記事などを検討
  2. 現在紙を取っている人にプラスアルファとしての電子版を想定している

 例えば日経電子版のオリジナル記事では、ウェブ上でも非常に評価が高い「ソーシャル革命の裏側」のように、1回の記事が8000字にも達する連載がある。通常の新聞記事は「簡潔でわかりやすいこと」を重視するため、今までの価値観からすればありえない長さであるが、それぐらい分量をかけることで伝えられるフィールドもあるに違いない。朝日が電子版オリジナル記事として狙っているのも、そういった方向なのかもしれない。