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国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

ブルームバーグ、記者に独自ダネ週1本のノルマ課す

 ブルームバーグ東京支局で記者をしていた男性(48)が10日、「週1本の独自記事」など達成が困難なノルマを課され、解雇に追い込まれたとして、地位保全を求める仮処分を東京地裁に申し立てた。
 男性や支援する新聞労連によると、2005年11月に入社し、株式市場の相場記事などを担当。昨年12月、(1)週1本の独自記事(2)編集局長賞級に匹敵する記事を月1本―などを要求する「業務改善計画書」を会社側から渡された。今年8月、編集局長賞級の記事の受賞がなかったことなどを理由に解雇されたとしている。
 新聞労連は「こうした手法を許してしまえば、国内企業でも簡単に解雇が可能になる」と訴えている。
記者に「独自記事」ノルマ課す 解雇不当と仮処分申し立て - 47NEWS(よんななニュース)

 さすが外資系企業は違うなあと思わせるニュース(via @nekote)。ちょっと調べてみると、ロイター通信の日本法人も1年前に「スクープ記事を今後、3週間に1本以上書く」などの勤務目標を課し、その後体調を崩して解雇した元記者に提訴されている。「常に、手直しの必要のない完全原稿を出す」というのは間違いなくいじめだ。(【参考】⇒「いじめで体調崩し解雇」と提訴 通信社の日本法人元編集者 - 47NEWS(よんななニュース)
 上記記事にある「独自記事」とはマスコミ業界用語で、いわゆる記者クラブでの各社揃って聞く発表や行事、お知らせなどの記事ではなく、自社が独自に取材した結果に基づく他社が書いていないニュースのこと。他社より先んじてニュースをつかみ、それを報道することを「抜く」と表現する。「独自記事」の中で特にニュース価値が大きいものを「特ダネ」「スクープ」と言ったりする。四国新聞の2001年の連載記事「民主主義の風景(1)記者クラブの功罪」によると、新聞紙面に占める独自記事の割合は2割に過ぎず、これが「発表ジャーナリズムの温床」「官庁情報の垂れ流し」と批判される理由であると解説されている。
 ロイターやブルームバーグなどの通信社は、経済・金融・市場・相場といった分野を取材対象とし、読者もそういう専門分野に偏っている。そこで働く記者にとってみれば、マネーに直結する情報なだけに、いわゆる発表報道ではなく「市場が少しでも動くネタ」をつかむためのプレッシャーが経営陣、ひいては読者から強くあるのだろう。
 経済報道を担う通信社・新聞社のコンピュータ報道の歴史と、その世界の現実を生々しく描いた名著「勝負の分かれ目」には、時事通信の記者の話として「醍醐味を感じるのは自分の原稿でマーケットが動いた時。筋のいいネタだとフラッシュ二本で為替が動く。ただ気をつけなくてはいけないのは、ガセネタでも動くということだ。市場関係者は真実を求めて電子端末を見ているわけではない。横ばいだと儲けるチャンスがない。ディーラーは嘘でもいいから動くニュースが欲しいわけで、突き詰めていくと報道とは違う世界だ(「第21章 記者たち」より)」という記述がある。
 

勝負の分かれ目〈下〉 (角川文庫)

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 日本の新聞社でも、記者に月1件くらいの新規購読を目標として課している新聞社は特に地方紙では珍しくないらしい。徹底した社だとフロア内に獲得件数の棒グラフを貼りだすところもあるという噂を聞くこともある。が、ノルマ未達成者を解雇するという話はさすがに聞かない。一般家庭とは異なる層をターゲットとする通信社ならではとも言えるが、こういう話が出てくるというあたり、ロイターにしろブルームバーグにしろ厳しい経営状況であることには変わりはないのだろう。