現場で学ぶネットとの付き合い方「ウェブはバカと暇人のもの」
著者は博報堂勤務や雑誌「テレビブロス」編集者などを経て、現在インターネットニュースサイトの編集者である中川淳一郎氏。本書内では特に言及されていないが、サイバーエージェントの運営するニュースサイト「アメーバニュース」の編集責任者のようだ。
刺激的なタイトルで、ネットユーザーを相手にしたビジネスとしてニュースサイトを運営する自らを「IT小作農」と自嘲し、インターネットの限界について「これでもか」というくらい実例を紹介しながら解説している。ブログコメント欄の「炎上」の仕組みや、「ネットユーザーの声」に頼ることの難しさや馬鹿馬鹿しさなど、読むだけで非常に面白い。キラキラ輝く「夢」や「理想」が語られがちなネットについて、ドロドロとした「現実」を語ってくれる。
おちゃらけ風味の文章の中でも見逃してはならないのは、著者が自嘲しつつもあくまでネットを“ビジネス”の場としてとらえ、ニュース事業で収益を出す過程の苦労話を本書の中で多く語っていることだろう。このあたり、外野から「儲かっていないのだろう」と言われがちな新聞社のネット事業とは、姿勢や覚悟に大きな差があるように感じる。
- 作者: 中川淳一郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/04/17
- メディア: 新書
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以下、個人的に感じた部分をメモ。
(ネットにヘビーに書き込む人物像は)揚げ足取りが大好きで、怒りっぽく、自分とは関係ないくせに妙に品行方正で、クレーマー気質、思考停止の脊髄反射ばかりで、異論を認めたがらない…と、実にさまざまな特徴があるが、決定的な特徴は「暇人である」ということだ。(p.57)
ネットニュースの編集者をしていてつくづく思う事は、新聞社の「特オチ」が一般的には意味がないということである。新聞社では、他社が掲載した特ダネを落とすことを「特オチ」と呼び、最大の屈辱であるとされている。新聞記者と話していても、「特オチが原因で更迭されたデスクがいる」などの話を聞く。
だが、ネットニュースではじわじわとネタが広がっていくため、一番目にスッパ抜く必要はなく、後発でそのネタを紹介してもそれなりにアクセス数は確保できるのである。一番目にスッパ抜いたとしても、他のサイトは悔しがらないし、媒体のメンツなんて読者は気にもしない。彼らは単に「おもしろいもの」「興味あるもの」をクリックするだけなのだ。さらに、一番目に報じたサイトにクレームが付きやすいというデメリットもある。(p.87-88)
断言しよう。ネットでウケるネタは以下のものである。
- 話題にしたい部分があるもの、突っ込みどころがあるもの
- 身近であるもの(含む、B級感があるもの)
- 非常に意見が鋭いもの
- テレビで一度紹介されているもの、テレビで人気があるもの、ヤフートピックスが選ぶもの
- モラルを問うもの
- 芸能人関係のもの
- エロ
- 美人
- 時事性があるもの
これはあくまでも私がこの2年半、ほぼ毎日のようにネット用のニュース記事を編集し続けた上で結論づけたものだが、これらに則れば確実に高いPVを稼ぎ出してくれる。(p.105)*1
少なくとも日本の場合、結局はこれが真実だ。
- 最強メディアは地上波テレビ。彼らが最強である時代はしばらく続く
(中略)
もし大企業が「宣伝費をテレビからネットへ大々的にシフトする」という方針を打ち出し、私が広告代理店の人間として提案を求められたのだとすれば、「ネットとテレビは完全に連動しているから、テレビでどうやって取り上げられるかをまず考えた方がいい。その方がネットでよく広がる」と提案するだろう。(p.120-122)
ニュースサイトの編集者をしている関係で、私はよく「何をいちばんの情報源にしていますか?」と聞かれるが、そこで答えるのは「テレビ」だ。
私は毎朝6時30分に起き、『ズームイン!!SUPER』(日本テレビ系)、『みのもんたの朝ズバッ!』(TBS系)、『めざましテレビ』(フジテレビ系)、『やじうまプラス』(テレビ朝日系)を、8時からは『スッキリ!!」(日本テレビ系)、『とくダネ!』(フジテレビ系)、『スーパーモーニング』(テレビ朝日系)の計7番組を、ザッピングしながら9時まで見続ける。
テレビを見ることによって、その日どんなキーワードや話題がネットで関心を持たれるかがすぐにわかるからである。そのキーワードや話題に合わせて記事をアップすれば、間違いなくPVは高くなる(p.127-128)
ネットで(企業の活動が)うまくいくための結論を5つ述べる。
- ネットとユーザーに対する性善説・幻想・過度な期待を捨てるべき
- ネガティブな書き込みをスルーする耐性が必要
- ネットではクリックされてナンボである。かたちだけ立派でも意味がない。そのために、企業はB急なネタを発信する開き直りというか割り切りが必要
- ネットではブランド構築はやりづらいことを理解する
- ネットでブレイクできる商品はあくまでモノが良いものである。小手先のネットプロモーションで何とかしようとするのではなく、本来の企業活動を頑張るべき