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国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

米国ジャーナリズム変革の現場報告「ルポ 米国発ブログ革命」

 著者は中日新聞経済部記者の池尾伸一氏。2005年から08年のニューヨーク特派員だった間にアメリカの30近くの街を訪れ、ブログがどのように米国社会を変えているかを丹念に取材した成果を新書判にまとめている。河北新報メディア局佐藤和文氏のブログ「Web日誌」のエントリで知った。

米国発ブログ革命 ルポ (集英社新書)

米国発ブログ革命 ルポ (集英社新書)


 著書は個人発の情報発信媒体であるブログが、08年の米大統領選でいかに影響を与えたかに始まる。オバマ、クリントンの候補者二人がそろってブロガー主催のミーティングに出席しなければならないまでにメディアとして成長した例や、今や全世界で利用者が2億人を超えたSNSであるFacebookの創業者が、経営をいったん離れてオバマ選挙対策陣営に参加し、オバマのウェブサイトを支援者たちが横のコミュニケーションを図るためのSNS機能を盛り込んだウェブサイトに作りかえ、主にネットを通して5億ドルを超える個人献金が集まるまでに支援者たちの活動を盛り上げる一翼を担ったことなどが報告されている。
 また、ブッシュ前大統領政権の意に沿わない検事を次々に解任したスキャンダルを暴露し、司法長官を辞任に追い込んだブロガーや、オバマの大統領選中の失言をスクープした主婦ブロガーなど、既存の新聞やテレビなどのメディアが担ってきた調査報道の分野でもブロガーが活躍しているといった事例や、ヤフーやグーグルといった企業でさえ屈伏せざるをえない強力な情報統制を敷く中国に対し、体制批判を厭わない市民メディア「博訊」の活動や、CNNなどでは報道されないイラクの日常を報道する「Alive in Baghdad」といったブログメディアの運営者にもインタビューを行う。
 一方、個人発の情報メディアの課題として、作り話やヤラセによって簡単にだまされてしまうネット社会の危うさも紹介。「インターネットは民主主義の敵か」などの著書で知られるキャス・サンスティーン教授にもインタビューし、ブログなどのインターネットメディアでは自分の好む情報ばかり選別してしまい、議論が対立する状態において意見が先鋭化して攻撃的になり、国民を分裂させてしまう可能性すらあり、サンスティーン教授の「意識的に自分の意見と違う主張に接していくことの重要性」という言葉を紹介している。
 そして、米国の新聞界の破綻が相次ぎ、リストラや身売りによって伝統的な取材範囲にすら維持できなくなり、取材力の低下が懸念されている新聞社の現状を解説した上で、それを打破するための一つの手段として、池尾氏はニューヨーク市立大学ジェフ・ジャービス准教授の「ネットワークト・ジャーナリズム(つながるジャーナリズム)」という概念を紹介する。

 わたしたちは、地球の真裏に住むブロガーの趣味や愛読書まで、瞬時に知ることができる一方で、自分の住む市の議会で何が議論されているのか、という最も基本的なニュースすらわからない、こっけいで、しかし恐ろしい住むことになるかもしれないのである。ここに、既存の報道機関もブログや市民ジャーナリズムもカバーできない「ニュースの空白」が広がるリスクが生まれる(p.222)

「つながるジャーナリズム」とは…(中略)…情報発信する一般の人と、報道機関で働くプロのジャーナリスト。あるいは、情報発信する一般の人同士。あるいは、ある報道機関で働くジャーナリストと、別の報道機関で働くジャーナリスト。あるいは、フリーランスのジャーナリストと、報道機関で働くジャーナリスト…。とにかくプロもアマチュアも報道機関で働く者も、互いの「枠」を超えて、情報発信する者同士として協力し合い、真実を見つけていこうという概念である。(p.225)

 そのほか、これからの新聞社の報道手法として、文章・写真だけでなく映像や音声、3Dグラフィックスやアニメーションも組み合わせた様々な形がウェブでは可能であることも示唆。五感に訴える表現や、データベースなどを生かしたウェブならではの報道手法にエミー賞やピュリッツアー賞といった歴史のある賞が贈られるなど、新聞社もインターネット時代に合わせた新しい報道手法を取り入れることの意義も説いている。
 本の後半で述べられている「読者参加型への脱皮」や「つながるジャーナリズムへ」については、先日読んだ共同通信畑仲哲雄氏の「新聞再生 コミュニティからの挑戦」と偶然にも問題意識の重なるところが大きいように感じた。池尾氏がアメリカの現状と未来への挑戦の姿を現地で取材しているとすれば、畑仲氏は日本の地方紙のそれに焦点を当て大学で研究を行っている。これからの新聞メディアの未来を考える上で、日米両国の取り組みを知るのにあわせて読みたい2冊と言えるだろう。

新聞再生―コミュニティからの挑戦 (平凡社新書)

新聞再生―コミュニティからの挑戦 (平凡社新書)