edgefirstのブログ

国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

ネットの無料文化はいつまで続く?「情報革命バブルの崩壊」

昨年秋に出た本。ユーザーや投資家の「期待」によって膨れ上がったネット社会を、世界的な金余りによってもたらされたバブルであると説き、無料や安価で利用できるネット社会のモデルが徐々に崩れていくのではということを考察している。

情報革命バブルの崩壊 (文春新書)

情報革命バブルの崩壊 (文春新書)


1章で「本当に、新聞はネットに読者を奪われたのか?」と題し、新聞社のネット事業が全く儲からない現実とその理由を説いている。
あくまで勘だが、この本、新聞社の上層部の人に結構読まれているのではないか。地方紙では最近、共同通信の記事はフリーに出すが、自社記事は会員限定*1としている社が増えているような気がする。
いろいろ面白いくだりがあったので、少し抜粋して紹介。

新聞社も通信社も、せっかく手塩にかけて作った情報を安値で買われては商売にならないどころは敵に塩を送る状態になっていることにはとっくに気づいているが、新聞各社足並みを揃えてネットから情報を引き上げることは何故かしない。再販売価格維持(再販)制度を維持することには執心するのに、肝心の商売のところでネットにばら撒きしていて収益が回復するはずがないだろう。(p.26)

このあたり、記者や販売店から「そうだそうだ」という声が聞こえてきそうだ。

新聞記事をダンピングする形でネットを配信する「裏切り者」の新聞社が一社でもあれば他社新聞をよんでいるのと同じだけの品質の記事がネットで読めてしまうところに問題がある。
そこで、通信社などが中心となって*2新聞社が一丸となってネット対策を行うというような方策に乗り出そうとしているが、実際のところほとんど効果が上がらないのは、なんだかんだで特定の新聞社がYahoo!などオンラインポータルサイトに新聞記事を提供してしまっているため、新聞記事が結局無料で読めてしまう現状を打開できないからだ。(p.30)

純粋に経済合理性から考えて、新聞社各社が再販制度を維持しようと頑張る必要はどこにあるのだろう。むしろ、先に述べたように新聞記事を不当な安値でYahoo!などに売却し、ネットにばら撒くことをまず止めさせて、新聞記事の閲覧にお金を支払う層を少数できちんと確保していく方が大事であろうと思われる。(p.47)

つまりは毎日と産経(および時事)批判ですね。
Yahoo!からの流入で支えられる「毎日.jp」と「イザ!」 - edgefirstのメモ

新聞社がやるべきはネット媒体に新聞記事媒体の供給をやめることではなく、情報インフラ業界と手を組んでネット事業の収益をネットサービス会社から取り戻すことだろう。ネットはもはや技術者やオタクだけが使う聖域ではなく、国民のすべてが利用する社会インフラとなったのであるから、分からないからと臆することなくネットを現実社会に取り込むための具体的な行動へと一歩を踏み出すべきだろう。(p.53)

1章をさらっと読んでしまうと「新聞社はネットに情報をばら撒くことをやめるべき」と短絡的に読めてしまいがちだが、1章の結論部分では著者はそこからさらに踏み込んだことを主張する。すなわち、新聞社は読者の属性や消費行動をきちんとつかんだ上で、無料でサービスを享受する層とは別に、新聞が本来顧客とする「情報を金を出して買う習慣を持つ人々」へ向け新たなサービスを作り出していくべきということだ。
少なくとも1章と2章はマスメディア関係者は読んで損はないと思われる。3章以降も興味深いトピックスがたくさんあり、新書なので手軽に読める。ちょっと時間が空いたときにでも読んでみることをおすすめ。

*1:例としては東奥日報静岡新聞愛媛新聞熊本日日新聞河北新報など

*2:47ニュースのことを指すと思われる