edgefirstのブログ

国内新聞社を中心としたマスメディア関連のウェブサイト巡回が趣味です。業界紙的なノリでトピックスをメモしていきます。

朝日・木村社長「電子版は春に10万達成」「若者に紙は届かない」「デジタルに対応できない記者は仕事を失う」

 1月9日付の業界紙・新聞情報に掲載されていた朝日新聞社・木村伊量社長の新年挨拶の全文がなかなか興味深かった。かなりの部分をデジタルに関する課題と取り組みに割いており、「強い者が生き残るのではなく、変化に対応するものだけが生き残る」というダーウィンの言葉を引きながら、2014年までをフェーズ1、2020年までをフェーズ2、それ以降をフェーズ3とし、それぞれの段階でどのようなデジタル戦略を打っていくかを詳細に示している。以下、気になった発言部分をいくつか抜粋。

 2011年5月に世に送り出した朝日新聞デジタルは、ASAの皆さんの協力もあって昨年末に有料会員が8万人を大きく超え、現経営陣が目標に掲げて取り組んで参りましたこの春の10万人獲得が達成できる見通しとなってまいりました。春以降はユーザーの反応なども見ながら、「ポスト10万」の戦略づくりに取り組みます。デジタルの「第二弾ロケット」に点火していくのが、この時期でしょうか。

 「ASAの皆さんの協力もあって」という表現がやや香ばしいが、予定より1年遅れで10万人を達成できる見込み。積極的なテレビCMや販売店への販促奨励金などの施策も別のインタビューなどで示されており、今年も朝日新聞デジタルの攻勢は続きそうだ。

 フェーズ2は、おおむね2020年頃までを想定した中期戦略です。見通しうる限り、この期間に紙の新聞の販売収入がデジタルや他の事業収入を上回ることはないでしょう。あくまで朝刊を中心に実配部数の維持にこだわるのが王道です。ただし、2015年には放送と通信の融合が本格化し、これを機にメディアの間の境目がなくなる「シームレス化」が一段と進むと見られています。(中略) そうした環境のもとで、「デジタル・ネイティブ」と呼ばれるいまの若者たちが社会の中核を担うことになっていくと、彼らに紙の新聞はどこまで読まれるでしょうか。彼らがある日突然、紙の新聞を読み始めることは期待できるでしょうか。本社もASAも曇りのない目で現実を見つめ、いっそうの意識改革、構造改革を進める必要があります。

 今回の年頭あいさつで一番驚いた部分がここである。反語を用いた遠回しな表現ながら、「デジタルネイティブ世代に紙の新聞は読まれない」ということを示唆している。朝日新聞社のトップがこういうことを発言する以上、もはや朝日は将来的に「紙」にこだわらない体制に舵を切ったと言えるのではないだろうか。

 もっぱら紙の新聞発行を担うイメージが強かった編集部門は昨年、デジタルを含む多彩な情報の発信部門へと大きく変わりました。記者活動のデジタル化もそのひとつです。朝日新聞記者であることを明かしてツイッターを取材・発信に使う「つぶやく記者」はこの1年で約60人になりました。新年から「ビリオメディア」の連載が始まりましたが、いまや世界ではビリオン、つまり10億人を超える人々がソーシャルメディアを通して、自ら情報を発信する時代です。すでに何歩も先に行っている欧米メディアに追いつき、追い越すべく、デジタルの流れを加速させます。新聞の締め切りは朝刊、夕刊の2回ではなく、24時間です。厳しい言い方になりますが、紙媒体に書くことだけこだわる記者は数年後には仕事がない、くらいに思っていただかなければなりません。

 東日本大震災をきっかけにソーシャルメディアの活用を急速に進めた朝日だが、トップがここまで言及するまでになっている。デジタルに対応できない記者は昇進や配属への影響はもちろん、配置転換すらありうるぞと言わんばかりだ。こういう社内の雰囲気の一端を知ると、朝日の各部署や地方支局など社内で競うようにツイッターアカウントが生まれているのもなんとなく理解できるような気がする。